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戦争と映画にはどんな関係があるの?

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みなさんは「戦争映画」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか?ド派手なアクションで悪役を倒すヒーロー映画?それとも、過酷な戦場を描いたリアルなドラマ?

実は、戦争と映画にはとても深い関係があります。映画は単なるエンタメではなく、人々の戦争に対する考え方や感じ方に影響を与えてきました。そして逆に、戦争も映画の内容や撮り方を大きく変えてきました。

今回は、「戦争と映画の関係」について、歴史や心理学の視点からわかりやすく紹介していきます。

映画は戦争をどう描いてきたの?

映画が誕生したのは19世紀末。じつはその初期から、映画は戦争と関わってきました。たとえば日露戦争(1904〜1905年)のときには、戦場の映像が実際にカメラで撮影されて公開されていたのです。

さらに、第二次世界大戦のときには、映画が政府の「戦意高揚(せんいこうよう)」に使われました。つまり、「この戦争は正しい」「みんなでがんばろう!」というメッセージを映画で伝えようとしたのです。

アメリカでは「敵は悪で、アメリカは正義」という構図の映画がたくさん作られました。日本でも『ハワイ・マレー沖海戦』という映画が戦争中に上映され、戦意を高める道具として使われました。

このように、映画はただ戦争を「記録」するだけでなく、人々の気持ちや考え方をコントロールする道具としても使われてきたのです。

戦争がヒーロー映画になることも

映画の中には、戦争を舞台にしたド派手なアクション映画もたくさんあります。その代表が、1980年代に人気を集めた『ランボー』シリーズです。

主人公のジョン・ランボーは、ひとりで敵をバッタバッタと倒す「最強の男」。特に『ランボー/怒りの脱出』(1985年)では、アメリカが実際には勝てなかったベトナム戦争を、ランボーが“勝ち直す”ような展開になっています。

この映画は、多くのアメリカ人が抱いていた「負けたくなかった」という気持ちをスカッとさせてくれるものでした。つまり、現実では苦しい戦争だったとしても、映画の中では「勝てる」「正義は勝つ」という夢を見せてくれたのです。

でも、そうやって戦争をエンタメ化すると、本来の悲惨さや複雑な背景が見えにくくなってしまう危険もあります。

戦争の悲劇をリアルに伝える映画もある

一方で、戦争の悲しさや残酷さを伝えようとする映画もあります。

たとえば『プライベート・ライアン』(1998年)は、第二次世界大戦中のノルマンディー上陸作戦を舞台に、兵士たちの苦しみや葛藤を描いています。冒頭の戦闘シーンはとてもリアルで、戦争を経験したお年寄りが「まるで本物だ」と言ったほどです。

また『シンドラーのリスト』(1993年)は、ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)を描いた映画です。主人公のシンドラーは最初、金儲けのために戦争に乗じていたのですが、後に良心に目覚めてユダヤ人を救おうとします。この映画は、ひとりの人間ができる「善」について、深く考えさせてくれます。

さらに『ブラッド・ダイヤモンド』(2006年)は、アフリカの内戦と「紛争ダイヤモンド」の問題を描いた映画です。キラキラしたダイヤの裏に、実は多くの人の苦しみがある―そんな現実を突きつけてきます。

これらの映画は、ただの娯楽ではなく、戦争の本当の怖さや、そこで生きる人々の姿をリアルに伝えることで、観る人に深く考えさせる力を持っています。

映画は心や記憶にも影響を与える

戦争映画は、私たちの気持ちや考え方にも大きな影響を与えます。

たとえば、『プライベート・ライアン』を観た人の中には、「戦争の怖さがリアルに伝わってきた」「命の重みを感じた」と話す人がたくさんいます。一部の退役軍人は、映画を観たことで戦場の記憶がよみがえり、途中で退席したという話もあります。

これは映画が持つ「感情に訴える力」がとても強いからです。映画を観ることで、私たちは登場人物に感情移入し、その人たちの痛みや悲しみを一緒に感じることができます。これを「共感」といいます。

また、映画は私たちの「戦争のイメージ」にも影響します。たとえば「ノルマンディー上陸作戦ってどんな戦い?」と聞かれて、『プライベート・ライアン』の映像が思い浮かぶ人もいるでしょう。実はそれって、映画が歴史の記憶をつくっているということでもあるのです。

まとめ:戦争と映画は、深く結びついている

戦争と映画は、単に「戦争をテーマにした映画がある」という関係だけではありません。映画は、戦争を記録し、戦争に協力し、戦争を語り継ぐ、大きな力を持っています。

そして観る側である私たちも、映画をただの娯楽として観るのではなく、「なぜこの映画が作られたのか」「何を伝えたいのか」を考えることで、もっと深く学ぶことができます。

映画は、戦争を遠くの出来事ではなく、「自分ごと」として感じさせてくれるメディアです。これから戦争映画を観るときは、ぜひその背景やメッセージにも注目してみてください。

参考文献

  • 加藤, 幹郎. (2006). 映像のアルケオロジー. 東京大学出版会.
  • Polan, D. (2005). The Rhetoric of Revenge: Rambo and the Vietnam War. In B. A. Rubin (Ed.), Hollywood and War (pp. 90–108). Sage.
  • Saito, M. (2012). Historical Memory and Hollywood Film: Saving Private Ryan and the National World War II Museum. Film & History, 42(2), 35–44.
  • Spielberg, S. (Director). (1993). Schindler’s List [Film]. Universal Pictures.
  • Zwick, E. (Director). (2006). Blood Diamond [Film]. Warner Bros.
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ずっとピースらぼ|Eternal Peace Lab
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ずっとピースらぼ管理人のわんぞーです。イギリスの大学院で平和学を学び、その後国際協力の専門家や大学の教員として仕事をしてきました。平和について中学生や高校生にもわかりやすい内容を届けることで、少しでも争いのない世界になればいいな、と思っています。 At Eternal Peace Lab, we aspire to contribute to a world without conflict by providing accessible content about peace for both students and adults.
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