民族や人種ってどうやって生まれたの?

「○○人はこういう性格だ」とか「△△民族は昔から敵だった」なんて話、聞いたことはありませんか? 世界にはたくさんの「民族」や「人種」がありますが、そもそもそれってどうやって生まれたのでしょうか? そして、それってそんなに大きな違いなのでしょうか?
今回は、歴史・遺伝・文化の視点から、「民族」や「人種」がどのようにできてきたのかを、わかりやすく解説します。
もともと人類はひとつだった?
最新の研究によると、現代の人類(ホモ・サピエンス)は、約20万年前にアフリカで誕生しました。そして約7万年前、その中の一部がアフリカを出発し、少しずつ世界中に広がっていったと考えられています。これを「アフリカ単一起源説」といいます。
このとき、地理的な条件や気候のちがいに応じて、さまざまな人類のグループがそれぞれの土地に適応していきました。日差しの強い地域では肌が黒くなり、寒い地域では体毛が濃くなったり、鼻の形が変わったりしたのです。こうした外見の違いが、「人種」と呼ばれるようになりました。
でも、DNAを調べてみると、実は人間どうしの遺伝的な違いはごくわずか。肌の色や顔つきは違って見えても、人間はみんな、もともと同じ「アフリカ出身」の仲間なのです。
「民族」は文化でできている
では、「民族」はどうやって生まれたのでしょうか?
「民族」は、言葉や宗教、食べ物や服装、伝統や価値観など、文化的な共通点を持った人の集まりを指します。たとえば「日本民族」と言うと、日本語を話し、日本の文化を共有している人たちのことを意味します。
でも、民族の区切りは、昔からはっきりしていたわけではありません。むしろ、昔の人たちは自分たちを「○○民族」なんて意識していなかったことも多いのです。例えば、今のヨーロッパでは「フランス人」「ドイツ人」などがいますが、中世のころは「フランス語を話す農民」とか「ドイツ語を話す貴族」など、言葉も立場もバラバラでした。
では、なぜ民族という意識ができたのでしょうか?
近代に入って「民族」が作られた?
18〜19世紀になると、ヨーロッパでは「国民国家」が作られ始めました。これは、ひとつの国にひとつの民族が住むという考え方です。そのため、国が人々に「あなたたちは同じ民族なんだ」と教えるようになりました。
このとき、昔の神話や民話、伝統行事などが「民族の文化」として見直され、「共通の歴史を持つ仲間だ」とする物語が作られていきました。こうして、「民族」という意識が多くの人に広まっていったのです。
つまり、「民族」は自然にできたというよりも、「私たちは同じ民族だ」と想像し、信じたからこそ生まれたとも言えるのです。
「人種」や「民族」って本当に大きな違いなの?
よく「人種」や「民族」の違いを理由に争いが起きることがあります。でも、本当にそんなに違うものなのでしょうか?
科学的に見ても、人間どうしの遺伝的な違いはわずか1%未満です。肌の色や目の形、言葉や宗教が違っても、それは環境や文化の違いにすぎません。たとえば、アメリカに住む日系人と、日本に住む日本人では、生活の仕方や考え方がまったく違う場合もあります。
つまり、「同じ民族」でも全然ちがうし、「ちがう民族」でもたくさん共通点があるということです。
なぜ違いを理由に争ってしまうのか?
それでも、「あの民族は敵だ」とか「この人種は信用できない」と言われることがあります。それは、人間が「自分たち」と「他の人たち」を区別しやすいからです。
昔から、人は知らないものや違うものに対して不安を感じる傾向があります。そしてその不安を「敵」とみなすことで安心しようとするのです。でも、それが行きすぎると、偏見や差別、戦争にまでつながってしまいます。
最後に:私たちはみんな同じ出発点から来た
ここまで見てきたように、「人種」や「民族」の違いは、外見や文化の違いであって、本質的な違いではありません。人類はもともと一つのルーツを持った存在であり、違いは時間とともに生まれたものでしかありません。
つまり、違いを理由に争う必要なんて本当はまったくないのです。
私たちが「ちがい」を知り、認め、尊重し合えれば、もっと平和な世界に近づけるはずです。人間はみんな、同じ地球に住む仲間なのですから。