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人はどうして戦争で人を殺せるの? 兵士たちの心理を知ろう

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ニュースや映画で「兵士が戦争で敵を撃ち殺す場面」を見たことがある人は多いでしょう。でも、よく考えてみると、「人を殺す」なんて普通は絶対にしてはいけない行為です。それなのに、どうして戦争ではそれが行われてしまうのでしょうか?

今回は、実際に兵士たちが「引き金を引いて人を殺す」までに、どんな心理状態になるのか、なぜそれが可能になるのかを、できるだけわかりやすく説明します。

本当は「人を殺したくない」のが普通

実は、ほとんどの人間は本能的に「人を殺すこと」に強い抵抗を感じます。たとえば第二次世界大戦のころの研究では、戦場で銃を持っていても、敵に向けて発砲しなかった兵士がたくさんいたそうです。人間は、目の前の相手が「同じ人間」だと感じてしまうと、引き金を引けなくなるのです。

敵を「人間ではない」と思い込む

でも、戦争ではそんなふうに迷っていたら、自分が殺されてしまいます。だから、軍隊では兵士たちに「敵を人間として見ないようにする訓練」を行います。

たとえば、

  • 「敵は虫や化け物だ」
  • 「あれは人間じゃなくて“ターゲット”だ」
    というように、相手を“非人間化”するのです。

このように考えることで、兵士は罪悪感を持たずに攻撃できるようになります。

「命令だから仕方ない」と思う

次に重要なのが「命令への服従」です。1960年代にアメリカの心理学者スタンレー・ミルグラムが行った実験では、「権威ある人から命令されると、人は良心に反してでも命令に従ってしまう」ことが分かりました。

軍隊では、上官の命令は絶対です。たとえその命令が「人を殺せ」というものであっても、「命令だから」と思うことで、自分の行為への責任を感じにくくなります。

「仲間のため」に戦う

実は、兵士が戦場で殺人行動に出る最大の理由のひとつは、「国のため」ではなく「仲間のため」と言われています。

兵士たちは小さな部隊で行動し、毎日一緒に寝起きし、訓練し、命を預け合う存在になります。そんな中で、「自分が撃たなかったら、隣の仲間が死ぬかもしれない」と思うと、迷っている余裕なんてなくなってしまうのです。

このように、「仲間を守るために撃つ」という考え方が、兵士の心を支えているのです。

「訓練」で殺すことに慣れさせる

現代の軍隊では、兵士に「殺すための訓練」をしています。たとえば、人型の的を使って射撃練習をしたり、反射的に撃つように体に覚えさせるような方法です。

こうした訓練により、兵士は「人を撃つ」という行動を、感情ではなく反射で行うようになります。「これは訓練の続きだ」と思うことで、実際の殺人に対する心理的な抵抗が弱まってしまうのです。

殺したあとの心の傷「道徳的な傷」

戦争が終わったあと、多くの兵士たちは「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」に苦しみます。爆撃の音や死体の映像がフラッシュバックして、眠れなくなったり、不安になったりするのです。

しかし最近では、それとは別に「モラル・インジュリー(道徳的な傷)」という新しい考え方も注目されています。これは「自分がやったことが間違っていたのではないか」と思い、自分自身を許せなくなる心の状態のことです。

たとえば、

  • 民間人を間違って撃ってしまった
  • 無抵抗な人を命令で殺してしまった
  • 殺人を喜んでいた自分に気づいた

こうした経験は、兵士にとって深い罪悪感や自己否定につながり、長年にわたって苦しみ続けることもあります。

戦争の「本当のコスト」

戦争では、多くの命が奪われるだけでなく、生き残った兵士の心も壊れてしまうことがあります。兵士は命令に従い、仲間を守り、自分を守るために人を殺します。でもそのあとに「なぜ自分はあんなことをしたのか」と、自分自身に問い続けるのです。

戦争が終わっても、兵士の心の中では「戦い」が終わらないことがある。それが戦争の“見えないコスト”なのかもしれません。

まとめ

人が戦場で人を殺せるようになる背景には、さまざまな心理的な仕組みがあります。

  • 敵を「人間ではない」と思い込む
  • 「命令だから」と責任を手放す
  • 仲間のために戦う
  • 訓練で反射的に撃つようにされる
  • その後、深い心の傷を負う

私たちが平和な社会で暮らしている今こそ、戦争に行く兵士たちの「心のリアル」に目を向けることが大切です。そして、「なぜ戦争が起きるのか」だけでなく、「なぜ人は人を殺せるのか」という問いに向き合うことが、未来の平和への一歩になるかもしれません。

主な参考文献

  1. デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫, 2004)
  2. Stanley Milgram, Obedience to Authority: An Experimental View(1974)
  3. Jonathan Shay, Achilles in Vietnam: Combat Trauma and the Undoing of Character(1994)
  4. Brett Litz et al., “Moral injury and moral repair in war veterans,” Clinical Psychology Review, Vol.29, No.8, 2009
  5. 香山リカ「イラク戦争帰還兵のPTSDはなぜ多いのか?」『imidas-情報・知識&オピニオン』(2010年)
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ずっとピースらぼ|Eternal Peace Lab
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ずっとピースらぼ管理人のわんぞーです。イギリスの大学院で平和学を学び、その後国際協力の専門家や大学の教員として仕事をしてきました。ずっとピースらぼでは、「優しい」と「易しい」の両方の意味をこめて、「やさしい平和教育」を発信しています。中学生や高校生にもわかりやすい内容を届けることで、いつの日か争いのない社会にできたらいいな、と思っています。 |Eternal Peace Lab shares information about easy-to-understand peace education. By delivering content that students can easily grasp, we hope to one day achieve world peace.
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