世界平和のつくりかた-宇宙人が攻めてきたら?

「もし宇宙人が地球に攻めてきたら、世界中の人たちは仲良くなるのかな?」
ちょっとふざけたように聞こえるかもしれませんが、この問いには、人間の心や社会のしくみに関する大切なヒントが隠れています。今回は、「共通の敵がいると人は協力しやすくなる」という性質に注目して、「本当の平和」をどうやって実現できるのかを一緒に考えてみましょう。
人間は「共通の敵」が現れると団結する?
人間には、不思議な心理があります。それは、「自分たちと同じ敵がいる」と思ったとき、たとえ普段は仲が悪くても、力を合わせやすくなるということです。
たとえば、学校でケンカしていた2人が、クラス外の意地悪な人に目をつけられたとき、「さすがにあいつはヤバいよね」と言って手を組むことがありますよね。これと同じようなことが、国と国の関係にも起きるのです。
歴史の例:ナチス・ドイツに立ち向かった国々
第二次世界大戦では、アメリカやイギリスなどの「自由を大切にする国」と、まったく体制の違う「ソ連(現在のロシア)」が協力して、ナチス・ドイツに立ち向かいました。ふだんは全然仲良くない国同士が、「共通の敵がいる」という理由で手を組んだのです。
心理学の実験でも証明されている
有名な「ロバーズケーブ実験」では、夏のキャンプに来た少年たちを2つのグループに分け、対抗ゲームをさせました。するとお互いに悪口を言ったり、仲が悪くなったりしました。
でもそのあと、「水が出なくなった」など、両方のグループにとって困る問題が起こると、少年たちは力を合わせて解決しようとしました。こうした「共通の問題(=共通の敵)」は、人と人との距離を縮めるきっかけになるんですね。
映画『インデペンデンス・デイ』に見る「人類の団結」
このような「共通の敵が現れて人が協力する」というストーリーを描いた映画が、1996年のアメリカ映画『インデペンデンス・デイ』です。
ある日、巨大な宇宙船が地球にやってきて、世界が危機にさらされます。アメリカ、ロシア、中国、中東の国々――ふだんは対立していた国々が、地球を守るために団結するのです。
アメリカ大統領は「今日、我々は人類として団結する」と演説し、人類が一つのチームのようになるシーンはとても感動的です。
宇宙人が来なくても、協力できるのでは?
もちろん、実際に宇宙人が攻めてくることはありません。でも、ここで大事なのは「宇宙人」そのものではなく、「地球のみんなで協力しないと乗りこえられない問題がある」と感じられるかどうかです。
心理学では、そうした「みんなで力を合わせないと解決できない課題」のことを「上位目標」と呼びます。
現実の世界にも、こうした“共通の敵”はたくさんあります。
- 地球温暖化や気候変動
- 感染症(新型コロナウイルスなど)
- 核兵器の拡散
こういった問題は、どの国も一人では解決できません。だからこそ「人類みんなで協力する」ことが求められているのです。
本当の敵は「宇宙人」ではない
でも、平和のためにいちばん乗りこえなければならないのは、「外からの敵」ではなく、「私たち自身の心の中」にある敵かもしれません。
たとえば、
- 違う考え方を受け入れられない気持ち
- 自分たちだけが正しいと思い込む心
- 暴力で問題を解決しようとする態度
こうした考え方が、世界の争いを生み出しているのです。
ユネスコ憲章にはこんな言葉があります。
「戦争は人の心の中で生まれるものだから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」
どれだけ立派な制度を作っても、人の心が変わらなければ本当の平和は訪れません。
おわりに:本当の平和をつくるには?
「もし宇宙人が攻めてきたら人類は協力できるのか?」という問いは、私たちにこう語りかけています。
「宇宙人が来なくても、人類は団結できるはずだ」
気候変動、感染症、核兵器――現実の地球には、すでに「共通の敵」が存在しています。だからこそ、国や文化、宗教の違いを超えて、協力する姿勢が求められているのです。
そして何より大切なのは、「違い」を怖がるのではなく、「違い」を認め合い、「同じ地球に生きる仲間」として手を取り合うこと。
本当の平和は、宇宙人が来るのを待つのではなく、私たちの心の中から始めることができるのです。
主な参考文献
Burgess, H. (2003). Enemy images. Beyond Intractability. University of Colorado.
Club of Rome. (1991). The first global revolution.
Guilbeault, D. et al. (2022). Exposure to common enemy information in polarized groups. Scientific Reports, 12.
Reagan, R. (1987). Address to the 42nd Session of the United Nations General Assembly.
Sherif, M. et al. (1954). Robbers Cave Experiment. ThoughtCo.(Ed. E. Hopper)