世界平和のつくりかた-曖昧さを受け入れよう

「正しいのはこっちだ!」「いや、あっちが間違ってる!」
こんなふうに、何が正しくて何が間違っているのかを白黒はっきりさせようとすることで、人と人、国と国の間には争いが起きやすくなります。
でも、もし「どっちも少しずつ正しいかもしれない」「はっきりしないけど、とりあえず話し合おう」と考えることができたら、争いは減るかもしれません。
実は、世界の平和を守るためには、「曖昧さ」や「グレーな状態」をあえて受け入れることが、とても大切なのです。今回は、そんな「はっきりしないことを受け入れる力」が、どのように世界の平和につながるのかについて考えてみましょう。
なぜ「白黒つける」と争いになるのか?
人は不確かなことに対して不安を感じがちです。だからこそ、「正しいか間違っているか」「味方か敵か」と、物事をはっきりさせたくなります。でも、世の中の問題の多くは、そんなに単純に決められるものではありません。
たとえば、宗教の違い、民族の歴史、文化の価値観などがからむ問題は、どちらか一方が正しいと決めつけると、相手にとっては自分の存在や信念が否定されたように感じられてしまいます。それが怒りや反発を生み、最終的に争いや戦争につながるのです。
曖昧さを保つことで対立を避ける方法
世界の外交の現場では、「建設的曖昧さ」という考え方がよく使われています。これは、おたがいの意見が大きく食い違っていても、「あえてあいまいな表現にして合意する」というやり方です。
たとえば、1998年の北アイルランドの和平合意(ベルファスト合意)では、「領土はどちらのものか」という問題に対して、あえてはっきりと書かず、将来の話し合いにゆだねるような形にしました。これによって、おたがいの立場を守りながらも、戦争や暴力を避けることができたのです。
また、アメリカが台湾をめぐる問題で使っている「戦略的曖昧さ」も有名です。アメリカは、中国と台湾のどちらの側にも「いざというときどう動くのか」をはっきり言いません。すると、中国も台湾も、アメリカがどちらに味方するか分からず、慎重にならざるをえないので、大きな戦争になりにくくなっているのです。
領土問題も「グレー」が平和のカギ
世界にはたくさんの領土問題があります。国と国の境界線があいまいで、「この土地はうちのものだ!」とおたがいが主張するケースです。
ここで「どっちの国の土地なのか、はっきりさせよう!」とすると、どちらかが負けを認めなければならなくなります。そして、その結果、怒りや報復心から戦争に発展することがあります。
だからこそ、たとえば「この土地の資源を一緒に使いましょう」「おたがいの国の人が自由に行き来できるようにしましょう」といった「共同管理」や「曖昧なままの協力関係」が取られることがあるのです。白黒はっきりしない、グレーな状態を受け入れることで、おたがいが顔を立てつつ、争いを避けることができます。
曖昧さを受け入れる心の力
心理学では、「曖昧さ耐性」という言葉があります。これは、「不確かなこと」や「はっきりしないこと」を受け入れられる力のことです。
この力が弱い人は、「すぐに答えを出したい」「決めつけたい」と思ってしまいがちで、それが争いや差別につながることもあります。でも、曖昧さに耐えられる人は、「まだ答えが出ていないけど、それでもいい」「話し合いを続けよう」と考えることができます。
国同士の対立も、結局は人と人の気持ちから始まります。だからこそ、ひとりひとりが「曖昧さを受け入れる力」を持つことが、平和につながっていくのです。
完璧な平和より、「争いのない状態」を守る
多くの人は、「戦争がまったくない理想の平和な世界」を求めるかもしれません。でも現実には、そんな完璧な状態はなかなか実現できません。
大切なのは、「とにかく正しさを求めて戦う」のではなく、「争いが起きない状態を、曖昧さの中で保ち続ける」ことです。はっきりしないことを無理に決めようとせず、おたがいの立場や意見を認め合いながら、対話を続けていくことが、唯一の現実的な世界平和の道なのです。
おわりに
「曖昧さ」は、ときに不安を生むかもしれません。でも、それを受け入れることで、私たちは争いから一歩距離を置くことができます。
完璧な平和を目指すよりも、「争いが起きない状態を続ける」ことのほうが、ずっと現実的で、ずっと大切な努力です。そのために必要なのは、「白黒つけない勇気」と、「グレーを共に生きる知恵」なのです。