大人になるってどういうこと? それは自分の弱さを受け入れること

みなさんは、「大人になる」ってどういうことだと思いますか?
子どものころ、「大人になったらもっとしっかりして、落ち着いた人になれるんだろうな」と思っていた人も多いのではないでしょうか。
でも、実際に大人になってみると――どうでしょう?
不安になることもあるし、イライラしたり、間違った選択をしてしまったりすることもあります。子どものころに思い描いた「完璧な大人」とは、ずいぶん違うなと感じることもあるかもしれません。
今回は、「大人になるってどういうこと?」という問いについて、心理学や哲学の考え方も紹介しながら一緒に考えてみたいと思います。
子どものころに思っていた「大人」は本当にいる?
小さいころ、私たちは「大人はなんでもできる存在」だと思っていたかもしれません。失敗もしないし、落ち着いていて、いつも正しい判断ができる人たち。
でも、実際に大人になってみると、誰だって悩みを抱えたり、落ち込んだりするものです。また、ある心理学の研究では、大人になっても「子どもっぽい心(=衝動的な気持ちや感情)」が心の中に残っていて、それがときどき顔を出すと言われています。
つまり、大人になっても「完璧な人」にはなれないし、なる必要もないのです。
大人になるとは「自分の弱さと向き合うこと」
じゃあ、大人になるってどういうことなのでしょうか?
ひとつの答えは、「自分の弱さや短所とちゃんと向き合うこと」です。たとえば、自分の性格や外見に劣等感を抱えていたり、人と比べてうまくできないことがあるとします。それを見ないふりをしたり、誰かのせいにしたりするのではなく、「ああ、これが自分の弱さなんだな」と認めること。
これは勇気のいることですが、実はとても大切な一歩です。心理学でも、自分の弱さや短所を受け入れられる人は、ストレスに強く、気持ちが安定しやすいことがわかっています。
弱さと向き合い続けることが「成長」につながる
「成長」というと、何かがうまくできるようになることや、レベルアップすることをイメージしがちです。でも、もっと大切なのは「自分の弱さと向き合って、少しずつ変わろうとすること」かもしれません。
大人になっても、失敗や不安は続きます。でもそれを繰り返しながら、自分の弱さや限界を理解し、一歩ずつ克服しながら前に進もうとする――この過程こそが、本当の意味での「成長」なのです。
最新の脳科学では、大人になっても脳の仕組みは変化し続けることがわかっています。つまり、人は何歳になっても変わることができるのです。
弱さを受け入れると、心が落ち着いてくる
自分の弱さを受け入れるようになると、不思議と気持ちが穏やかになります。たとえば、「失敗してもいい」「自分にはできないこともある」と思えるようになると、緊張や不安が少しずつやわらいでいくのです。
心理学の研究によると、自己を受け入れる(=自分にダメなところがあると認める)ことで、脳の「扁桃体(へんとうたい)」という不安を感じる部分の活動が減ることが分かっています。つまり、自分にやさしくなることで、心が落ち着いてくるのです。
自分にやさしくなれると、他人にもやさしくなれる
もうひとつ大切なことがあります。それは、「自分の弱さを受け入れられるようになると、他人にもやさしくなれる」ということ。
自分のことを「完璧じゃない」と認めると、同じように誰かが失敗したとき、「わかるよ」「誰にでもあるよ」と思えるようになります。逆に、いつも「自分はちゃんとしてる!」と思い込もうとしている人は、他人にも厳しくなりやすいといわれています。
大人になるというのは、「自分も不完全な存在だけど、みんなそうなんだ」と理解して、他人にも寛容(=おおらか)になれることだともいえるでしょう。
プライドが高くて人に厳しい人は、実はまだ未熟?
自信満々で他人に厳しい人は大人っぽく見えるかもしれません。でも心理学では、それは「心の未成熟」の表れかもしれないと考えられています。
本当に成熟した人は、自分に自信があるからこそ、他人に対しても寛容で、失敗を責めたりはしません。むしろ、自分の弱さを受け入れているからこそ、他人の弱さにも共感できるのです。
まとめ:「大人になる」ってどういうこと?
「大人になる」とは、年齢を重ねることではありません。自分の弱さを認め、受け入れ、それでも前に進もうとする力を持つこと。そして、自分にやさしくなれるからこそ、他人にもやさしくできること。
それは、完璧になることではなく、「不完全な自分とともに生きる力」を身につけていくことなのです。だからこそ、「大人になる」ことには、終わりがないのかもしれません。
主な参考文献
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